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男雛と女雛(内裏雛)の左右の配置

■はじめに

並べ方、飾り方については「ひな人形の飾り方」もご参照下さい。

■日本の古来文化では、男性が右、女性左

古来の日本文化では、男性は向かって右、女性は向かって左とされてきました。

雛人形の伝統的並び

この並びについては、「陰陽説(いんようせつ)」の考え方が影響しています。
(詳しい内容は、このページ下に「陰陽説について」という項目を設けました。)

陰陽説では世の中のあらゆる物質・現象を、陰・陽の二気で構成されるものと考え、どちらの気が強く現れるかにより、万物を陰と陽に分類します。例えば太陽は陽、月は陰、天は陽、地は陰といった具合です。

ここで問題とされる「左右」と「男女」はそれぞれ次のように分類されています。
(陰と陽はあくまでも要素であって、善悪、優劣、主従といった価値基準とは本来関係のないものです。)

属性
性別
方向

ものを並べる場合は、陰陽それぞれの属性を対応させます。左右で言えば、左には「陽」、右には「陰」に属するものを並べることが自然だと陰陽説では考える訳です。

従って、男女を並べる場合、男は「陽」、女は「陰」に属しますので、それぞれ陰陽を対応させて、左に男、右に女が来るということになります。

ただし、これは自分から見たときの左右ですので、他者から見た場合には、左右が逆になりますので、これを補足しながらまとめると、

【陽】左(向かって右)・男 【陰】右(向かって左)・女

ということになります。

ちなみに、舞台の上下というのも、同じ論理によるものです。上は陽、下は陰に属しますので、上手(かみて)は左(向かって右)、下手(しもて)は右(向かって左)となります。

■雛人形の並びは地域により異なる

現在でも、京都を中心に関西地方では、向かって右・男雛、向かって左・女雛が主流です。

それ以外の地域では、向かって左・男雛、向かって右・女雛が主流の地域が多いようです。

人形の並び例(新式)向かって左・男、右・女

この新しい並びは、昭和の初期ごろから東京を中心に広まったとされています。

※以下、便宜上、時間軸を基準に「古式」「新式」と呼称しておきます。(これは弊社内の呼称でもあります)

新式の並びですが、広まるきっかけや理由については、東京の雛人形業界が昭和天皇の即位礼に倣ったことが発祥とか、文明開化以後の西洋化(西洋は向かって男左・女右)が影響しているとか諸説ありますが、震災や戦争による資料消失もあって、はっきりとわかっていないのが実情のようです。

なお、当資料室「ひな人形の飾り方」をご参照いただくとおわかりになると思いますが、男女の並びだけをもって「関東式」「関西式(京式)」と呼称するのは、あまり正確ではありません。官女や仕丁の持ち物に違いがあるからです。

■おひなさま以外の人形の並び

内裏雛以外の人形や飾り、すなわち三人官女、仕丁、五人囃子、桜橘にも並びがあります。これらも古来からの並びに従っており、ここにも陰陽説の影響がみられます。→参考:飾り方

「左近の桜、右近の橘」という言葉はよく知られていますね。桜は春、橘は夏のものです。春と夏そのものは「陽」に属しますが、季節の並びとしては、陽(春→夏)→陰(秋→冬)の順になりますので、これに従えば、左に桜、右に橘が配置されるということなります。

ところで、字面の関係もあって、とくにこの桜橘と、右大臣・左大臣の並びは間違いやすいので注意しましょう。この場合の左右は自分自身を基準に見た左右ですので、向かって見た場合は逆になります。

人形・飾り 並び(向かって左から)
桜橘 橘、桜
三人官女 加銚子、三宝(京式は島台)、長柄銚子
五人囃子 太鼓、大鼓、小鼓、笛、謡
随身 右大臣(若人)、左大臣(老人)
仕丁 怒、泣、笑

ここで、お気づきの方もおいでかもしれませんが、興味深いのは、これらの並びは昔から変わりなく、男雛女雛のように古式と新式の区別がない(言い替えると古式のまま)という事実です。

なぜ関東式が、内裏雛の男女の並びだけが変わって、その他の人形や飾りの並びは変わらなかったのかについては、知的好奇心が刺激される問いなのですが、現時点では私どもは明確な答えを持っていません。学術研究等に委ねたいと思います。

なお、この点に関して、ある研究者の方から、京都で古式の男女の並びを守るのは、陰陽説に基づいて、全体の並びとの整合性を守っているが故である、とのご指摘もいただいております。

■新式と古式、どちらで並べるべきか

住居地、出身地、家庭の習慣、人形の様式など、基準はたくさんあります。こだわるもよし、こだわらずもよし、各家庭で御判断いただければよろしいかと存じます

父母の出身地域で習慣が異なる場合は、お子様を基準にして、よく相談しましょう。

蛇足ですが、弊社直営店の展示では、新式が主流となっています。作品の意味合い等によって、古式で並べる場合もございます。

■【補足】 陰陽説について

陰陽説とか、陰陽二元論というのは、古代中国の思想です。

世の中を構成するすべての物は、陰と陽の2つの気により構成されるという考え方です。

この陰陽説と五行説に重きを置く「道教」が、平安時代に日本に伝わり、仏教や神道の影響の下で「陰陽道(おんみょうどう)」として日本独自の発展を遂げていきます。

「厄」の概念や、この陰陽説など、雛人形の成立・発展にも重要な影響を及ぼした陰陽道については、「厄」と「縁起物」とを対比しつつ、改めて触れてみたいと考えています。(執筆予定)


この陰陽説は、この世のありとあらゆる物質や現象を、陰と陽の作用や性質が発現したものだと考えます。例えば、

  • 太陽と月  太陽は陽。月は陰。(月のことを太陰ともいいます)
  • 季節    春・夏は陽。秋・冬は陰。
  • 東西南北  東と南は陽、西と北は陰。
  • 上下    上は陽。下は陰。 (身分や地位でなく、単純に方向の上下です)
  • 左右    左は陽、右は陰。
  • 男女    男は陽。女は陰。

といったものです。

陰と陽は、それぞれ物質を構成する要素と考えられていたもので、どちらが欠けてもバランスの取れない「等価」のもので、本来は善悪や優劣などの価値判断とは関係のないものです。

陰陽和合という言葉もあるように、陰と陽が調和してはじめて、自然の秩序がうまく保たれるというのが、陰陽説を採る「道家」「道教」の考え方です。

老荘思想(老子・荘子の思想)では、「自然の秩序」を重く見ますので、身分・優劣・主従といった「人の作った秩序」には、肯定的な見方をしません。

従って、陰陽に序列をつけるような考え方は、もともとの陰陽二元論とは相容れないのですが、長い歴史の中で、世俗化した部分や、当時の社会状況を背景に、学者や為政者に都合良く解釈された考え方が紛れ込んでいるのも事実でしょう。注意を要する点です。


この陰陽説は、現代でもいろいろなところに影響をみることができます。

「元気」「陽気」といった言葉は普段でも使いますが、陰陽説が由来のものです。

「易経」をもとにした易占いもそのひとつです。この易経は儒教の教養のひとつだったこともあり、「八卦」、「太極」、「君子豹変」などといった、易経由来の言葉が多く伝わっています。

日本では神道があったせいか、宗教としての「道教」は根付きませんでしたが、「陰陽道」としては、文化的にも大きな影響をみることができます。

最近は、若い人向けの小説や映画、漫画、アニメなど、ファンタジー分野の題材として「陰陽道」や「陰陽師」をテーマにした作品も目立ちます。

■さいごに

本稿では一定の「事実」を基準にして一般向けに解説したものであり、
特定の事柄・事象についての善悪や優劣を述べたものではありません。

何卒ご理解の程をお願い申し上げます。

旧記事に関し、諸々ご指摘下さいました研究家、業界関係者の方々に、この場を借りて改めて御礼申し上げます。

文責:webmaster  
構成:2009年12月11日
 修正:2010年01月03日