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瑞祥・瑞獣(ずいしょう・ずいじゅう)1

■瑞祥・瑞獣

平安天鳳の高級織物シリーズの説明文に、しばしば瑞祥とか瑞獣という記述が出てきます。

「瑞」には「めでたい」、「祥」には「前兆」とか「吉兆」という意味があります。

これらは、古代中国において、神話や伝承をもとに、帝、王、国家統治などの象徴として図案に使われたものです。

なお、日本のおめでたい物、縁起物については、別途改めて解説したいと思います。

■儒家

孔子、孟子などに代表される「儒教」は、国の統治に「仁」や「徳」を求めます。そのためか、徳のある統治者、仁政、平和といった文脈で、瑞祥や瑞獣が語られます

儒家の文献にみられる瑞祥は、麒麟、鳳凰、河図と言ったところでしょうか。

孔子は春秋戦国時代に、周公を理想として為政者に徳を説いたのですが、時代に受け入れられなかった思想家でした。孔子の言行録「論語」子罕編に、鳳凰、河図が現れないことを嘆く言葉をみることができます。(子曰、鳳鳥不至、河不出圖、吾已矣夫。)

河図というのは、一種の文書で、黄河から現れるとされています。中国では、洛書、竜図など、水の中から予言書などの文書が現れるという伝承が多くあります。

怪力乱神(オカルトっぽい話)を語らなかった孔子です。単に思想を説く一種の方便として、礼記の記述を引いて、例えや象徴の意味でこれらを語ったのかもしれません。論語以後に成立した儒教の文献にはあまり頻繁に出る種類の言葉ではありません。

■道家

老子や荘子に代表される「道教」では、帝や王の象徴については、少し異なる表現がされます。

陰陽説・五行説に基づき、太陽・月や星座といった、天文学的表現がされることが多いようです。また「天界」「仙界」「不老不死」というキーワードも重要です。

よく使われるのは、太陽、月、北極星、北斗七星といったところでしょうか。

平安天鳳雛人形でも採用している、龍村美術織物の「玉兎星座文」という織物には、太陽、太陰(月のこと)、北極星、兎が図案に使われています。

兎は月で仙薬(不老不死の薬)を搗いているとされます。日本ではお餅をついていると思っている人が多いようですが、本来は不老不死の薬をついているのです。

皇帝と不老不死あるいは長寿というのは、古代では必然の結びつきといってよいでしょう。

有名なところでは、漢の武帝が徐福に命じて東夷の蓬莱(一説には日本ともいわれます)に仙薬を求めたという「徐福伝説」などが例に挙げられるでしょう。

■山海経(せんがいきょう)

瑞祥は別として、瑞獣をはじめとした想像上の動物を語る上で忘れてはいけない文献があります。詩人、陶淵明の漢詩「讀山海経」のモチーフとしても知られる「山海経」という書物です。

この文献は、基本的には地理書なので、半分以上が細かい地理の記述(とはいってもほとんど想像上、伝説上のもの)で占められていますが、古代からの怪物、想像上の動物等に関する記述が豊富で、古代人のイマジネーションの豊かさに驚かされます。

■瑞獣(ずいじゅう)

おおよそ、龍、鳳凰、麒麟、亀の4種類です。古代中国で非常に重要な四霊や四神も、この4種類の動物で構成されています。

◎四霊 ー 動物の王

応龍(おうりゅう)…… 「変幻」
鳳凰(ほうおう) …… 「平安」徳のある王が出現するとともに現れる
麒麟(きりん)  …… 「信義」王が徳のある政治を行うと現れる
霊亀(れいき)  …… 「吉凶」

◎四神 ー 方角(あるいは四季、色)を司る霊獣

青龍(せいりゅう)…… 東、春、青
朱雀(すざく)  …… 南、夏、赤(朱)
白虎(びゃっこ) …… 西、秋、白
玄武(げんぶ)  …… 北、冬、黒 *玄は黒の意味です。玄人(くろうと)の玄です。

朱雀は鳳凰と同一視されています。玄武は亀の形をしています。


以下、龍、鳳凰、麒麟、亀と見ていきます。

■龍

想像上の動物の代表格です。日本でも龍神様をまつるところが多く見られます。

述異記(じゅついき)という中国の書物によると、水に棲む蝮が500年生きると蛟(みずち)になり、その蛟が千年生きると龍になるそうです。さらに500年生きると角が生えた角龍になり、それから1000年経つと、上述の四霊のひとつ、応龍となり、年老いた龍は黄龍という最高位の龍となるそうです。

これとは別に、鯉が滝を登って龍となるという登竜門の伝説もあります。こちらの伝説はポピュラーで、ご存じの方も多いはずです。

登竜門は「龍が登る門」という意味ではなく、「龍門を登る」と読みます。中国の黄河に「龍門」という急流の難所があり、そこを登り切った鯉は龍になるという言い伝えが元となって、立身出世の例えで使われるようになります。

鯉のぼりはこの故事が元になっています。

■麒麟(きりん)

現在キリンと呼ばれる偶蹄目の動物(英名 Giraffe)は、中国の明の時代、鄭和による南海遠征のときに東アフリカの諸国から献上されたもので、現地語の発音が中国語の麒麟に似ていたことから、そう呼ばれるようになったそうです。

元々の麒麟は、ビールの商標でもおなじみの姿です。麒はオス、麟はメスというように雌雄で漢字が異なります。(鳳凰や虹も同じように雌雄で別の漢字が使われます。)

麒麟は、王が仁徳のある政治を行うと現れる動物とされています。

中国の「春秋」という書物の最後は、「獲麟(かくりん)」というエピソードで終わっていることは有名です。

魯の国(孔子の出身国)で麒麟が捕らえられたのですが、人々は瑞獣と知らず、恐れおののき(或いは殺してしまったとも)、唯一、孔子だけが麒麟であることに気がついたものの、人々の見る目のなさと、麒麟の扱いの悪さに失望したという話です。

周公旦を理想とした仁政を時の為政者に説いてまわるも、戦乱の時代では受け入れられること無く、失望とともに生涯を閉じた思想家孔子の姿は、「獲麟」の麒麟そのものです。

■鳳凰

鳳凰は想像上の鳥で、聖天子の出現とともに現れるとされます。鳳はオス、凰はメスを指します。平安天鳳の名前もこの瑞獣から取っています。

日本では平等院鳳凰堂や金閣寺の屋根の鳳凰像が有名です。鳳凰堂の像は現在の一万円札の裏側にもあります。

鳳凰は、道教の影響で、後に朱雀と同一視されることとなります。

火木土金水の五つが世界を構成する要素だとする「五行説」においては、朱雀は「火」を司る鳥とされます。そのため、同じく自分を炎で焼いて再生するという西洋のフェニックスと同じように扱われることがあります。

■亀

亀は萬年などというように、亀は長寿の象徴です。一万年とまでは行かないまでも、亀は長生きな動物です。日本では、鶴と一緒に長寿の象徴とされていることはご存じですね。

中国古代では、亀の甲羅を焼いて、そのひび割れで吉凶が占われました。古代の王は祭祀王でもありましたので、王と占いと亀は非常に結びつきが強いのです。

そのような背景で、四霊の霊亀は吉凶を表します。姿は甲羅に髭あるいは尻尾のように苔がついた姿です。日本でも古い絵画によく見かけます。君が代にも「苔のむすまで」とあるように、苔がむすほどの長期間、すなわち長寿や繁栄の瑞祥となるわけです。

四神の玄武は亀に蛇が巻き付いた形で描かれます。道教や中国の天文学「宿曜教」などの影響で、天文学的な意味が付与されています。亀は北極星、まきつく蛇は北斗七星をかたどったものともいわれます。

北極星は数ある星座の中心で、星々はその周りをまわっているように見えます。そのため、北極星は皇帝を表す星とされています。古代中国では、皇帝は南を向いて(南面して)政治を行うとされています。南を向くと言うことは、北に位置するわけです。つまり「北」というのは天子の座を表しているのです。

玄武は高松塚古墳の壁画にも現れていますので、日本にはかなり早い時期に伝わっていたようです。

■参考文献

ひとまず簡単に書名だけピックアップしておきます。Webmaster所有の古い本ですので、現在は手に入れにくかったり、現在の版とは異なる場合があります。

  • 論語(吉川幸次郎・朝日文庫・中国古典選)
  • 老子(福永光司・朝日文庫・中国古典選)
  • 孔子伝(白川静・中央公論社)→現在中公文庫版で再版
  • 孔子暗黒伝(諸星大二郎・創美社)→現在集英社文庫版で再版
  • 抱朴子・列仙伝・神仙伝・山海経(本田濟・平凡社・中国の古典シリーズ4)
  • 史記・上(司馬遷・野口定男・平凡社・中国の古典シリーズ1)
  • 中国神話伝説集(伊藤清司・松村 武雄・現代教養文庫